スーパーにいくと、ついつい目が合ってしまう。
それは「見切り品」と名付けられた平台に置かれた食品の数々である。
少し痛みかけた野菜たちが中心で、黒みが強くなったバナナやら、茶色が時々見える小松菜やらが並べてある。
なるべく素通りしようと思うのだが、痛々しいほど山積みされて残っていると捨てられた子犬のように見えてしまい、
「しかたない。一つくらいなら・・」
と手に取ってしまう。
先日、その中にイチゴたちがいた。
小粒のイチゴは痛んだ様子もなく、ただ並んでいた。
時期も終わる。最後の大放出の時期がやってきたのだろう。
しかし1パック150円は安い(≧∇≦)
2パックをカゴにいれ、家に連れて帰ることにした。
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次の日は休みだった。
朝の家事の合間に、軽く洗ってへたを取る。
重量をはかってその1/2~1/3の砂糖を用意する。
我が家は本当に砂糖を使わない。
どこにしまったけ・・と思いつつ、買い置きのきび砂糖の封を切り、さきほどのイチゴにまんべんなくまぶしておく。
お昼過ぎ、ボウルをのぞき込むと浸透圧できれいな赤い色が底にたまっている。
それをホウロウの鍋に入れて、火を入れる。
水は入れない。火力は弱火。
クツクツと音がするまで、放置、である。
音がしてきたら木べらで静かに上下をかき混ぜていくと、白いアクが出始める。
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ちなみに、このアクは捨てない。
丁寧にすくってティーカップに入れておく。
あとで紅茶を入れてロシアンティーにして楽しむのだ。
甘酸っぱくてイチゴと紅茶の香りいっぱいのこのお茶は夫の大好物でもある。
私も飲み物には何もいれない主義なので、この時期にしか飲めないストロベリーロシアンティーは格別だし、特別である。
普段捨ててしまうアクではあるが、いちごのアクだけはあとのお楽しみとして冷蔵庫にいれておく。
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さて、鍋の続きである。
アクもとられたイチゴは一部、色が抜けて白っぽくもなったりするのだが、出てくるルビー色の液体がやがて本体に戻るのだろうか、きれいな赤い色になり、ツヤツヤでトロトロに変化してくる。
ほとんどイチゴの形は残っている。これは本来ならジャムではなくプリザーブという。
果実を潰したものが「ジャム」、形を残した物を「プリザーブ」というのだ。
プリザードには小さな頃から憧れがある。
「大草原の小さな家」シリーズの「農場の少年」だ。
主人公ローラの夫アルマンゾの少年時代の話で、開拓時代の厳しさや生活が生き生きと描かれている。
しかし、この物語、まあなんというか、
おいしそうな食べ物のオンパレードなのだ。
私はこの本が大好きだった。今も宝物だが、読み込み過ぎてひどくボロボロになっている。
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ベークド・ビーンズに塩漬け豚、ベーコンやハム。
蒸かして皮がむけているジャガイモや煮込んだかぼちゃ、ゆでたカブのマッシュ。
搾りたての牛乳。その牛乳から作る、クリームやバター。
エッグノックにチキンパイ、アップルパイ、メイプルシロップがしたたり落ちる積み上げパンケーキ・・・。
この中に、きゅうりやビーツなどをピクルスにしたり、くだものをプリザーブやジャムにする描写もあるのだ。
今でいう、飯テロ、である。
すごいすごい。いろんなものを自分で作れるんだ(≧∇≦)
読みながら、大人になったら、こんな風に自分で作るぞっ、と幼いころの私にこの物語は強い印象を残した。
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だから台所に漂う、甘いイチゴの香りがうれしくてたまらない。
ああ、アルマンゾやローラのお母さんはこんな風に料理を作ったんだな、とにやけてしまう。
この香りを味わうこと。それは料理をする人の特権だ。
存分に味わいながら、ルビー色のイチゴジャムを混ぜているとき、本当に幸せな気分になるのだ。
2パックのイチゴからできたジャムはきれいなルビー色に落ち着いた。
熱湯消毒した瓶に詰めて冷やして完成だ。
鍋に残った分は、近所の一人暮らしのおばあちゃんたちに配る。
分量はほんの気持ち程度。
たくさんは食べられないけど、すこしだけ欲しいの。
少しならパンにつけていただけるでしょ。
と毎年リクエストをもらうのだ。
それでも残った分は、普通の器に入れておく。
これは神経質にしなくとも、大の甘党である夫の胃袋に2、3日うちに収まってしまう算段だからだ。
先日も、1パックで作ったプリザーブは気が付いたら消えていた・・・。
な・・なんたる(怒)
普段甘い物を全く食べない私だが、このときばかりはパンにジャムをのせて、季節を味わう。
そして口にいれて、ああ、そろそろ夏が来るんだなぁと思いを馳せるのも恒例なのである。
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