推理小説を読み続けた先にあったもの

エッセイ

私の中高の学生時代は推理小説を読む時間にほとんどが費やされた

お小遣いのほとんどは推理小説を買うために消えたといっても過言ではない。

特に探偵が出てくるミステリーにのめり込み、当時飼っていた猫の名前は、本職は東京大学医学部法医学教室助教授、6カ国語を操る天才探偵、「神津恭介」から「恭介」と名付けるくらいだった。

ちなみに、シャムネコの「恭介」は21歳という化け猫にでもなりそうなくらい長生きをし、名前が乗り移ったのかと思うくらい、本当に賢くて、品のある猫であった

ともかく。

そのころの私の頭の中は、映画やドラマも含めて生活すべてを結びつけてしまうほど、ミステリー一色だったのだ。

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ところで。

推理小説には「ノックスの十戒」「ヴァン・ダインの二十則」のような書かれる上でのルールがあることをご存じだろうか。

たとえば一番有名なノックスの十戒を上げると以下になる。

ノックスの十戒

1.犯人は物語の始めに登場していなければならない

2.探偵方法に超自然能力を用いてはならない

3.犯行現場に秘密の抜け穴・通路が2つ以上あってはならない

4.未発見の毒薬や、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない

5.中国人(並外れた身体能力を持つ怪人)を登場させてはならない

6.探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない

7.変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない

8.探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない

9.“ワトスン役”は自分の判断をすべて読者に知らせなくてはならない

10.双子や変装による一人二役はあらかじめ読者に知らせなければならない

『探偵小説十戒』より

上記の通り、探偵は超自然能力を用いてはならないとか、偶然や第六感によって事件を解決してはならないなど、読者が極力現実に即した推論が立てられるような暗黙のルールである。

2019年4月に放映された「あなたの番です」は視聴者の考察熱が高まるにつれて、この「ノックスの十戒」に照らし合わせる人が増えたのだろう、「ノックスの十戒」という言葉が頻繁にネットに上がるようになった。

結局、ドラマの結末はこのルールから大きく逸脱した形となり、真剣に考察をしていたミステリーファンからは大変な批判を受けていた。

「ヴァン・ダインの二十則」ルールもノックスの十戒と似ているが、興味のある方はぜひ検索をして、確認してほしい。

あえて、このルールからあえて逸脱させて作られた傑作もあるのが、ミステリーの面白さでもある。

探偵のキャラクターと、ありとあらゆるトリックと謎に満ちたミステリーの魅力に取りつかれた私は、本当にたくさんの推理小説を読んだ。

ミステリーの醍醐味は「謎の解明」である。

しかし、へそまがりな私は、謎を解くよりも、このルールに照らし合わせて、整合性や、論理が破綻していないかも合わせて確認していくことが楽しく、むしろそちらに夢中になった。

やがて、そのへそまがりな私は、気が付くと独自の本の読み方を編み出していた。

 

きっとミステリーファンからは、「邪道だっ」と石を投げつけられる読み方にちがいない。

 

実は、こうやって告白するのも怖いのだが・・・(汗)

 

 

その方法とは・・・。

 

 

 

 

犯人が誰なのかを書いてある場所を探し出した後、先に読んでしまう方法だ。

 

要するに、先に犯人を知ってしまう、いわゆるネタバレというやつだ。

 

「えええっ」「そりゃないわ」・・・

 

という声が聞こえてきそうだ。

 

みなさんきっと思われただろう。

 

書いている私もヘンな汗をかいてしまう。

 

「謎を解き明かす『推理』」の「す」の字もない。(;’∀’)

 

実に、身も蓋もない読み方だ。

 

どうしてこんな読み方になったのかというと。

 

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せっかちな私は読んでいるうちに、どうしてもすぐに早く犯人が知りたくなってしまうのだ。

前述したとおり、謎を解くよりも、整合性を合わせることが好きな私は、罪悪感にかられながら、こっそり後ろのページで答えを読んでしまう。

犯人とトリックをなんとなく知って「なるほどっ」とそのあとどんな事件が起こるのかよくも知らないのに納得する。

「ふむふむ、Xが犯人か。」

「こうやって事件を起こしたのか。」

「なるほど、○○と△△を使うトリックか。」

そこまでわかると、やっと安心する。

安心すると、ゆっくりと落ち着いて最初から読めるのである。

先ほど分かった、犯人「X」が書かれたいる「行動」とトリックに使われた「○○」と「△△」というキーワードを頭において読み進めていくわけだ。

たとえば犯人がヒロシ」という男性で、「花の開花時間」はしご」を使った事件だと知ったとする。

すると、ヒロシがどんな動きをして、そのが出てくる場面と、はしごが一体どこに置いてあったのかを考えながら、注意深く読んでいくのだ。

そうやって読んでいくと、他のアイテムのことは何気なく書いてあるのに、はしごのくだりになると置き場所や形状など、やけに描写が細かかったりしたりすることがわかるようになってきた。

この描写が結末につながっていくのだと思うと、筋を追っていくのとはまた違う、物語の構成や作者の意図を知りながら読むのが楽しくなってくる。

けれども問題があった。

長いこと、こんな読み方をしていたので、この方法は私の「読書の癖」となって身についてしまったのだ。

読みたいところだけ先に知り、必要なキーワードを見つけてから読んでいく。

よいか悪いかはさておき、この方法で私の本を読むスピードは格段に早くなっていった。

特にビジネス書を読むときにはその癖は顕著に現れた。

開いて、目次をまず読む。

そして、パラパラめくって気になるキーワードを元に読んでいると必要な情報だけが不思議なことに頭に入ってくるのだ。

心に残り、もう一度読みたい、と思った作品は丁寧に読むが、そんな本は年に数回当たるかどうかだ。

気が付くと丁寧に読むことをしなくなっていた。

普通のビジネス書だと、30分くらいで読み終わってしまうようになった。

 

しかし、断じていう。

こんな本の読み方は読書ではない。著者さんにも失礼だとも思う。

ある著者さんがこう書いていた。

「1700円で買える本ですが、今の私が精いっぱい魂を込めて書いた本です。どうかその気持ちを受け取ってください。」

この言葉に私はまず「申し訳ない」とひれ伏してしまう。

今度こそ丁寧に読もう、と思うのだが、読み始めると集中し、完全に乱読家」に戻ってしまい、読み終わってから「あっ、またやってしまった」と思うのだ。

実にうしろめたい。

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ところが、である。

最近、「早く読むことは良いこと」だという風潮が世の中にあることを知った。

検索してみると早く、たくさんの本を読むためのノウハウが詰め込まれている書籍がたくさん世に出回っている。

試しに読んでみると、私の雑な読み方とほとんど同じ方法が書いてあるものもあった。

(もちろん、読んだ後のアフターケアや、頭に残るために必要な情報も書いてあるので、みなさんは「早く読むためのビジネス書」をきちんと正しく読むことをお勧めする)

なんでも、人間の脳には「網様体賦活系(RAS)」という機能があり、必要な情報のみを脳にインプットし取り入れるフィルター」のような役目するのだという。

前述の例でいうと、「ヒロシ」「花の開花時間」「はしご」というキーワードを頭において読むと、私の脳は3つの言葉を探し出して効率よく情報のインプットをしてくれるのだ。

だからほかのあまり必要でない情報を取り入れなくても、そのキーワードだけ拾うだけで本を読む大体の目的が達成されてしまうというのだ。

読んでいて、とても複雑な気持ちになった。

ずっと恥じていた読み方が推奨されている。

ダメな自分を認めてもらえたような気分と、本当にそれでいいのか、という想いが入り混じった。

ビジネス書を雑に読んでしまう私だが、どんな本でも、初めて読むときに必ずすることがある。

本を手に持つと、丁寧に頭を下げる。

「学ばせてください」
「よろしくお願いします」

と心の中で声をかける。

これは、私が尊敬する方に教わった。

一礼することで、「本から学ぶぞ」という姿勢が脳に伝わること。

著者への感謝を忘れないでいられること。

「学ぶという姿勢」を形に示すだけで、脳は「10」学ぶことを「11」に変え吸収していくのだからと。

自分に合う合わないはあっても、著者の考えから、必ず何かしらの学びはあるものだからと、その人は教えてくれた。

だから思ったのだ。

雑に読んでしまうお詫びにせめて、この一礼だけは続けよう。

本からの学びだけはきちんと受け取ろうと。

そしてせっかちでいい加減な私は、また後ろめたさを抱えたままで、乱読家に戻るのであった。

コメント

  1. […] […]

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