山口拓朗さん、という著者と出会った。
2019年に発売された「『9マス』で悩まず書ける文章術」という本でだ。
当時、いや、今もだが、私の頭の中は常にとっちらかっていて、いろんなことが頭の中をぐるぐると回っている。
脳裏に出現する速度は人一倍早いくせに、浮かんではどんどん消えていってしまうこの「思考」というものに手を焼いていた。
この本は自分に問いかける、という手法に9マスの表を使い、思考を整理して文章を書くことを丁寧に説明してくれている。
これはすばらしい本だっ、とAmazonで見て、すぐさま購入した。
本当に良書で私は今もこの本を時々手に取っては開き、思考の整理をしている。
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この本が発売されてすぐに購入したので、当時、早期特典がついていた。
記憶が定かではないので間違っていたら申し訳ないのだが、何かSNSに感想を投稿すると、山口さんの音声がダウンロードできた。
私はよく考えずに、もらえるものなら、と特典ほしさに簡単な感想をSNSに投稿してその音声を手に入れた。
この音声のことは今も鮮明に覚えている。
忘れもしない、友人と東京で会って、帰りの総武線。
人気のいない席に座ると、気軽な気持ちで山口さんの音声を入れたウォークマンのスイッチを入れた。
音声は、「本ではなかなか語れないこと」と前置きがあって、山口さんの熱い熱い「文章を書くこと」についての想いが1時間にわたって語られていた。
私は惹きこまれた。
山口さんの声が心の琴線に触れる。
私は電車内という場所にも関わらず、感動のあまり涙が止まらなくなってしまった。
ー 私の中の何かが壊れた
当時の私は、
小さなケンカがあるくらいの平和な家庭にいて、
適度なプロジェクトを任されるくらいの仕事量をこなし、
好きな読書と推しの俳優さんが出演するエンタメを見て過ごす
普通の主婦兼、会社員であった。
大切な友人が突然亡くなり、生命のはかなさや生きることの意味を漠然と考えていたのもこの頃だ。
心の中に澱のように何かが沈み、訳のわからない焦燥感が少しずつ少しずつ大きくなり私を押しつぶし始めていた。
少なくとも仕事は、私がいなくなっても、誰かが代わりにつとめるだろう。
つまり、私などいなくてもそれはそれで成り立つのが社会だと、自分に対する「無価値感」が日増しに募っていた時期であった。
『平均寿命まで、平均よりもなるべく長く楽しく生きること』
それが「命の使い方」なのだろうかと、ずっと考えていた。
でも、私には何もできない。
何も持っていないし、何も与えられない。
そんな私に山口さんの言葉は、一つ一つ、私の日常の問いに答えてくれているかのようだった。
「あなたが人に貢献の文章を書かないことによって本来救えるはずの人を見殺しにしてしまいます。」
「あなたはたくさんたくさん人を救えますし、社会に貢献できます。」
私でも誰かの役に立つことができるの?
とても力強い口調で、一言一言私の耳に入る山口さんの言葉は、はちきれそうになった私の焦燥感や無価値感でつぶれそうになっていた気持ちに穴を開けた。
それはまるで、針で一つ穴を刺しただけで割れて四方八方に水しぶきとともに散ってしまう縁日の水風船のようだった。
泣くことが我慢できない。
まずい、まずい。
電車で、こんなに号泣したらはずかしい。
それでも続きが聞きたくて、ウォークマンのスイッチは切れなかった。
人があまりいなくてよかった。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになり、音声を聞き終わった後、私の胸の奥にしびれるような不思議な感覚とともに、湧き上がった強い思いは
「この山口拓朗という人に会いたい」だった。
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講演会などないだろうかと家に帰って検索したところ、「山口拓朗ライティングサロン」の体験会があることを知った。

そこでなら山口先生に会えるぞ、と思ったが、そのサロンの趣旨である三本の柱を見て躊躇した。
「SNS情報発信」「セールスライティング」「ビジネス書出版」がメインの柱なのである。
本当に、本当に申し訳なかったが、このどれにも興味がなかった・・。
しいていえば、昔ブログをやっていたくらいだったが、すでにやめてしまった趣味が中心だったので、SNSはツイッターしかサロンの範囲に入らない。
それでもどうしても、山口さんに会いたいと思った。
直にお会いしたいと思った。
入らなくてもいいからと参加費を支払って参加することにした。
(現在はコロナ渦でオンラインのため無料。今後変更の可能性あり)
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参加日当日。
私は早退して、会社から2時間かけて会場に向かった。体験セミナーなので人数は5人。
スタッフを入れると8人というこじんまりしたものだったが、体験したいというみなさんは、あきらかに私とは雰囲気が違ってキラキラしている。
当然である。
みなさん「自分を高めるため」「自分のビジネスをさらに成功させるため」が目的で、ここにいるのである。
私のようなミーハーな気持ちで「著者さんに会いたいっ」という不埒な動機の輩はいなかったのである。
おしりがムズムズするような居心地の悪い中、セミナーは始まった。
初めてお会いする山口さんは、物腰は柔らかいが、そばで話を聞いているだけで、多くの人に貢献したいというエネルギーがビンビンに伝わる熱い人だった。
内容も高額なセミナーを聞いているくらいの濃い内容であった。
やがてセミナーは終了した。
うむ、満足だ。
生の山口さんに会えた。
さて帰ろう・・
と思ったとき、
「せっかくですから少し歓談しましょう」との声。
(え・・聞いてないよ・・)
思わず固まった。
(注:現在は体験セミナーはオンラインのみなので、歓談はありません)
そこまで人見知りではない私であったが、このキラキラされている方々と一緒にいるのは
クジャクの群れの中にアホウドリが放り込まれたようで居心地が悪い。
しかし、お茶などを用意されているのを見ては、飲み物に口をつけて帰らなければ失礼ではないかと思った。
スタッフの方が飲み物を配るのを手伝い、乾杯の音頭の後、歓談が始まった。
あたりを見ても、はやり皆さん、キラキラされていて、まぶしくて目も開けていられない・・・。
一口、ウーロン茶を手につけて帰ろうとしたとき、スタッフの方に声をかけられた。
その方はとても笑顔が素敵なジェントルマンで、私のような者とも気軽に話をしてくれた。
ジェントルマンと雑談のあと・・・。
「いかがでしたか?」
と問いかけられた。
「とてもためになりました。」
「入会についてはどうしようと思われていますか」
「帰ってから考えようかなと思っています。」
「学びがあったのなら、ここで決断されてもいいのではないですか?」
満面の笑みである。
ジェントルマンのジェントルマンらしいとても素敵な笑顔である。
この笑顔で言われたら、迷いは「YES」に変わってしまっていた。
そこでふらふらとジェントルマンの魔法にかけられたように「入会」という項目に私は○をつけた。
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こうしてサロンのメンバーになったが、セミナーが開かれる土曜日は仕事のことが多いため、リアル参加はなかなかできなかった。
けれど、大丈夫。動画を残してくれているのだ。
私は時間があると、普通の「文章の書き方」ではないその動画にたちまち釘付けになり、熱心に繰り返し見るようになった。
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山口拓朗先生は想像以上に素晴らしい方だった。
サロンのメンバーは山口さんを「先生」とは呼ばない。親しみを持って「たくちゃん」と呼ぶ。
たくちゃんは実際にお会いするととても柔和で、私が聞いた音声で感じた燃えるような熱意は普段からは感じられない。
しかし、サロンで学ぶにつれて、たくちゃんの熱は普段は見えないが、まるで高温な青い炎の様にいつも心のうちで静かに燃えているのだとわかった。
一つのことに秀でてしかも教えるという立場になると、どんな人格者の人でも時に上から目線になってしまうことがある。
しかしたくちゃんにはそれがない。
文章のことになれば厳しい指摘をしてくださることもあるが、それ以外はとても謙虚だ。
マラソンでいえば、指示を出すコーチではなく、一人一人、異なる選手の歩調に合わせて一緒に進んでくれる伴走者のようだ。
あまりに不思議に思って、
「なぜそこまで謙虚な立ち位置で、みんなと向き合えるのですか?」
とたくちゃんに聞いたことがある。
「私は文章のこと以外は何も知らないんです。それ以外のことはみなさんに教えてもらいたいんです。」
たくちゃんはそう真面目な顔で答えた。
何冊ものヒット著書を出した山口拓朗という人が、何も知らないはずがない。
そんなはずはないのだが、本気でたくちゃんはそんなスタンスを貫いている。
常にみんなから、たくちゃん自身も学びを得ようとしている。
だからからこそたくちゃんは一人一人の目線で、その人の紡ぎ出す言葉を大切にしてくれ、みんなに心から慕われているのだ。
その言葉に、私はたくちゃんから学ぶことができて本当に幸せな人間だと思った。
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学校の国語の授業は退屈だった。人の価値観を押しつけられている感覚があった。
文章とは文字の羅列、接続詞と単語の並び・・
型にはまった文章に私は興味が持てなかった。
ライティングサロンは、「SNS情報発信」「セールスライティング」「ビジネス書出版」がメインではあるが、教えてくれるのは「文章道」である。
もちろん、テクニックも教えてくれるが、書く人の気持ち、読む人の立ち位置、自分と向き合って一体何が内側から出てくるのかまで学ぶことができる。
やがて私は、リアルセミナーに何回か参加するようになった。
キラキラしている、とまぶしくて見ることもできなかったサロンメンバーの方々も、それは私の卑屈さからそう思い込んでいただけで、とても気さくで気遣いのある思いやりのある人たちばかりだということに気がついた。
メンバーさんの思いやりや優しさに感動して涙したこともあるくらいだ。
今はコロナ禍で、セミナーはオンラインになりさみしい限りだが、WEB上ででメンバー同士の交流もある。
ブログの添削、有名著者さんを招いてのセミナー、グループコンサルやさまざまな学びの機会もあり、盛りだくさんだ。
あのとき、入会を迷っていた私の背中を押してくれたスタッフの方に心から感謝したい。
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おそらく、セールスライティングやビジネスのために学んでいる他のメンバーさんたちと違う立ち位置に私はいると思う。
けれど、このサロンで学んできた「文章道」と仲間、そして私の「書くというモチベーション」が得られたことは計り知れないほど大きかった。
こんなこと、他のサロンでは絶対に学べないということが「山口拓朗ライティングサロン」にはある。
もしも、「書くことが好きだけど、何書いていいのかわからない」とか「頭に浮かんだことが書きたくても書けない」とか悩んでいる人がいたらぜひ、体験セミナーだけでも参加してみることをおすすめする。
コロナ禍のため、オンラインで現在無料、月に1度開催されている。

「書く」って、本当に楽しくて自分を解放してくれるツールなのだと教えてもらえる。
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今一つ、確実に言えることがある。
それはフラフラと「入会」と書いた私の行動は間違いでなかったと。
あのときの私のことを本当に褒めてあげたい。
少なくとも、私はこのサロンに入って、変わった。
「なんとなく」だったものがしっかりと形になってきた。
『平均寿命まで、平均よりもなるべく長く楽しく生きること』
それが「命の使い方」だと、私はもう思わなくなった。
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